ドメーヌ訪問記 ルイ・キャリヨン、グロ・フレール・エ・スール、カミュ・ペール・エ・フィス 後編

さて、午後一番でグロ・フレール・エ・スールのドメーヌ訪問を終えた後、ロマネ=コンティなどの畑をのどかに観光して、グランクリュ通りをそのまま北上。

クロ・ヴージョ城や、ミュジニ、ボンヌ=マール、クロ・ド・ラ・ロッシュなどの銘酒畑を車窓より眺めながら、ジュヴレ=シャンベルタン村へ入ります。

もうすぐ花が咲きそうな将来のブドウを沢山つけたシャンベルタンの畑。そこで車を止めて観光し、いよいよ3軒目のドメーヌへ。

大きな栗の木の広場の隣りに、ドメーヌ・カミュ・ペール・エ・フィスがあります。

このドメーヌはジュヴレ=シャンベルタン村だけに集中して18ヘクタールもの畑を所有している、代々この村に居を構える家族経営のドメーヌなのです。しかも所有畑の3分の2がグランクリュという点では、他に例がありません。

今日ご案内してくださるのは、カミュ氏の一人娘、マリー=エディットさん。

日光から遮断されひんやりとした醸造所にはズラリと角型タンクが並び、隣接する作業場には圧搾機と除梗機が設置されています。

まるで博物館にそのまま飾ってありそうな、昔のままの圧搾機。今でもこの圧搾機を使っているドメーヌは本当に珍しいです。このタイプの圧搾機は収穫後にまた解体してきれいに掃除する必要があり、翌年の収穫に備えて再度組み立て直さなければならないという代物。

「毎年、解体、組立てを繰り返すなんて、大変な作業ですね?」
と聞くと、
「優しく平均的に圧搾が出来て、絞り出される果汁の質がいいの。
現代になって普及している空圧式圧搾機は調節が難しくて…果汁に粒が混ざって出てきてしまうこともあったりして、そうなるとフィルターにかけなければならないでしょ。フィルターにかけると旨み成分まで取り除いてしまうことになってしまうの。
最近は、この古い圧搾機が見直されて、これに似せて新開発された垂直型圧搾機を使うドメーヌが増えてきています。」
と、マリー=エディットさん。


とはいえ、18ヘクタールもの畑を持つドメーヌです。そうでなくても沢山の仕事を一気にこなさなければならない収穫時は、摘み立てのブドウを一刻も早く仕込みタンクに送り込まなければなりません。そのために使用しているのがこの最新式除梗機。ドイツ製で、コンピューターが内臓され、熟れていないブドウや、カビの生えたもの、葉っぱなどを「見る」ことによって、梗と一緒に吐き出してくれるのだそうです。


太陽が燦々と降り注ぐ乾いた外気とは打って変わって、地下のカーヴは湿度が高く、暗くひんやりとしています。樽の中で2010年のワインが静かに眠っていて、棚には瓶詰めにされたワインも少量ながら寝かされています。

湿度が高いとすぐにカビがつき、瓶の上に分厚い埃がたまります。
「これはロックフォールの青かびと同じカビよ。樽で熟成中のワインの蒸発分によって黒くなっているだけ。食べられるのよ。」
う〜ん、食べたくないかも…(苦笑)と私たち。


大戦中に造られた珍しいヴィンテージも保管されていました。
1937年と1943年。つまりお父さんと叔母さんの誕生年。

「大戦中はドイツ軍がワインを飲んでしまったり、持って行ってしまったりして、カーヴの中は空っぽになってしまいました。私のおじいさんは、息子と娘の誕生年のワインを守ろうと、土を掘って隠したのです。」
先祖に敬意を払う彼女は、自分にとっても宝物というように、棚の中のワインに纏わる話を物語ってくれました。


その他にも昔の名残がそこかしこに見られます。

天井には、蝋燭台を掛ける金具がそのまま残されています。1910〜20年にかけてやっと電機が通ったのだそうです。

また、同じ頃、ひいおじいさんが時代の先駆者となってワインを元詰めし、ドメーヌのラベルを貼って売り始めたのだそうです。

「その頃は瓶づくりも工業化されたいなかったので、一本一本、職人が口で吹いて作っていました。ほら、一本一本、形が微妙に違っているでしょう?」
確かに、よく見ると底の窪みも現在のものよりずっと深くて、形が一定していません。

セラー訪問の最後に、金を吹き付けてラベルの絵を瓶に直接描き出した貴重なシャンベルタンを見せていただきました。


さて、地上階に戻ってきて、テイスティングです。

「フルーティーなワインが好き」というお客様の希望に合わせて選んでくれたのは、2006年のヴィンテージ。

村名ジュヴレ=シャンベルタン2006年、グランクリュ・シャルム=シャンベルタン2006年と、同じ年の比較試飲に続き、もっと熟成した今飲み頃の2000年のシャルム=シャンベルタンと、同じく2000年のシャンベルタンをいただきました。

日本の震災を思って、2006年と2002年のグランクリュのマグナムを3本、それぞれ木箱に入れて、チャリティーオークションに寄付してくださったそうです。

「木箱に入れて、一本一本時期を変えてオークションに出品されれば、それだけ値段も上がると思って。日本のインポーターはフランスの会社より信頼できて本当に素晴らしいといつも感心するの。震災が起きたときもすぐに連絡をくれて、心配しないよう会社の状況を説明してくれました。だから力になりたいです。」

ワインを片手に色々な話題に花を咲かせながら、楽しい時間はあっという間に過ぎ、お暇直前に、畑仕事を終えて戻られたお父様(カミュ氏)の登場!

ワイナートに掲載されたのと同じポーズを自らとってくださりニッコリ。さらに和やかな雰囲気に。

思い返せば、醸造所に飾られていた先代の写真も、このドメーヌのワイン造りを物語っている…。

「今でも私たちの仕事を、おじいちゃんがあそこからしっかり監視しているのよ。」
と、マリー=エディットさんは微笑みながら言っていた。


先代への絶大なる尊敬心、温故知新の哲学。
今日の訪問の一部始終から、カミュ・ペール・エ・フィスのワインのスタイルが理解できたような気がしました。

      • 伝統的な味、ちょっと古めかしさのあるワイン。

今流行りの「早く飲めるワイン」「洗練されたワイン」ではなく、昔から引き継がれた味。家族のワインなんだ…って。


※このブログは、5月初旬の訪問記録です。


重要!


文中のドメーヌは、日本で実際に愛飲されている方のみ、お客様として訪問を受け付けています。

コンタクトをとるには、ドメーヌ側にこれだけの時間と労力、ワインの消費をお願いするに相応しい具体的な訪問理由が必要です。(自己紹介、普段ここのワインをどれくらい飲んでいるのか等。。)

ブログを読んでという理由での訪問は受け入れられませんのでご了承ください。

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ブルゴーニュ・レザンドール 
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